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ブルガダ症候群
ブルガダ症候群
 はじめに
ブルガダ症候群と言われた方は、そのほとんどの方が初めて聞かれる病名かと思います。このページを読まれる方の多くは健康診断の心電図でこの病名がついたため病院を受診されますが、なかには突然倒れたり、心肺蘇生を受けた方もおられるかも知れません。このページではまず、ブルガダ症候群がどういった病気なのかをはじめに説明をして、その後、症状があるかどうかで、ご自分の当てはまるところをみていただくようにします。
 
1)ブルガダ症候群とは
ブルガダ症候群は1992年にスペインのブルガダ兄弟が特発性心室細動の病気として報告しました。心電図ではST上昇という波形が特徴的で、現在ではこの波形をブルガダ型心電図、ブルガダ型波形と言ったりします(図1)。特発性心室細動とは、はっきりした原因(例えば心筋梗塞や狭心症や心不全等)が無いのに、心室細動という心臓が全く働くことのできない、直接死につながる重症の不整脈をいきなり起こすと言った病気です。それまで、原因不明の突然死とされていた病気の一部を明らかにしたのです。日本では「ぽっくり病」と用語があり、元気だった人が突然亡くなった場合、特に朝起きてこないので家族が見に行ってみると亡くなっていたというケースが多いと思われます。このぽっくり病のかなりの割合の人がブルガダ症候群に該当すると思われます。もちろん中高年の方では心筋梗塞や脳卒中等で突然命を落とすことが多いですが、20歳代から50歳代の突然死のなかでは比較的大きな要因となっていると考えられます。この病気の特徴は、男性に多く、夜間に心室細動の発作を起こすことです。心室細動が起こると、心臓が血液を全身に送ることができなくなり、意識を失う(失神)、けいれんを起こす、睡眠中なら呼吸がおかしい・息をしていないということで気がつかれます。多くの場合は心室細動が一過性で元々の正常の脈拍に戻り、一時的な症状で終わりますが、不幸にも心室細動が止まらなかった場合、命を落とすことになります。
 
2)ブルガダ症候群で行われる検査、治療
まず外来では心電図、運動負荷心電図、加算平均心電図、心エコーと言った検査を行います。これらの検査は決して特殊な検査ではなく、日常的に心臓病の方に外来で行っている検査です。必要に応じて24時間心電計で不整脈の発生や日常生活下での心電図の変化(入浴、食事等)を確認します。こういった検査で異常が認められる場合、入院した上で薬剤負荷検査を行います。ブルガダ症候群では不整脈の治療に使う薬を使用した場合、逆に心電図の異常や不整脈が悪化してしまうことがあり、この検査は入院、モニター心電図監視下で行います。また他の疾患の除外、不整脈の起こりやすさ、合併不整脈の有無をみるために心臓カテーテル検査(電気生理学的検査、冠動脈造影、心筋生検)を行います。こういった検査を行い、非常にリスクが高い(心室細動発作を来す危険性が高い)と判断された場合、植込み型除細動器の植込み手術を行います。ブルガダ症候群ではある程度有効とされる薬剤はあるものの、完全に発作を予防できる可能性が少ないため(かつ発作が起こると致死的になりうるため)、除細動器手術が必要となります。
当院ではブルガダ症候群が報告されて以来、早い時期からこの疾患に注目をし、現在までに320人以上の患者様に検査を行い(無症状194例、動悸・めまいなどの軽度の症状39例、失神80例、心肺蘇生後17例、うちカテーテル検査まで行ったのは約190名)、71人の方が除細動器治療を受けられています。受診時無症状であった方で当院で検査を行い将来的に発作を起こす危険が高いと判断された方のうち2例で植込み型除細動器の作動がみられ、命に別状なく日常生活を送られています。
 
3)遺伝子検査について
ブルガダ症候群では心筋の活動を制御するタンパク質の先天的な遺伝子異常が原因であると報告されています。特にナトリウムやカリウム等のイオンを心筋細胞の内外に出し入れするタンパク質(イオンチャネルといいます)の異常が現在までに7種類報告されています。血液検査で遺伝子を調べることで、この遺伝子異常が存在するかどうか、また家族の方でも同様な異常があるかどうかを調べることが可能です。当院では倫理委員会の承認を得ており、遺伝子採血時に十分に説明を行い同意書を取った上で検査を行っています。現在までに100人以上のブルガダ症候群(疑い例も含む)の方の遺伝子検査を行っております。
 
4)検診等で心電図異常をいわれたものの、症状の無い方
失神等の症状が無く、検診の心電図で異常を指摘された方が大部分を占めると思います。最近は心電計の自動診断にも取り入れられ、ブルガダ型心電図という所見がつく頻度が増えていると思われます。こういった方々は、聞いたことも無い病名をつけられ、またインターネット等で調べて突然死の危険性があると書かれているのを見つけると、非常に不安を強く感じていることと思います。しかしながら心電図異常がある方のほとんどは、生涯ブルガダ症候群による不整脈発作(心室細動)を起こさないと考えられています。いままでに様々な報告がありますが、大体の報告や当院での経験では無症状の方が発作(心室細動)を起こす危険性は100人中、2年に1人程度とされています(図2)。的確に発作を起こす危険性の高い人を見分ける検査は残念ながらありませんが、日本循環器学会のブルガダ症候群の治療のガイドラインでは、不整脈発作が起こっていない方は、失神の既往、カテーテル検査での心室細動誘発、突然死の家族歴の3項目中2項目が当てはまる場合、除細動器治療を勧めています。しかしながら危険性の高い方や発作を来している方すべてがこの項目に当てはまる訳ではないので、(2)で挙げたような検査を組み合わせることで危険性の程度を評価し、除細動器治療までが必要かどうかを判断する必要があります(表)。過度に不安になる必要はないと思われますが、ブルガダ型心電図を言われた場合、循環器専門の施設を受診することをお勧めします。
 
5)失神、意識消失の発作がある方
失神、意識消失といった症状のある方は、ブルガダ症候群の発作に伴う症状の場合、比較的短時間に繰り返す可能性があり、速やかな検査、治療が必要となってきます。しかしながら、ブルガタ型心電図を有していても、失神の原因が心室細動で無い場合は、直ちに除細動器適応とはなりません。一過性意識消失の原因として迷走神経性失神(神経調節性失神)、起立性低血圧、徐脈、てんかん、脳虚血発作等ブルガダに関係し無いものが大多数を占め、鑑別が必要となってきます。除細動器治療を受けると、ある程度の生活制限が必要になってくるため、発作の原因を見極めた上で適切な治療が必要となります。
 
6)心室細動発作が確認されている方
この場合、植込み型除細動器治療が必要となります。ブルガダ症候群で発作を来した場合、1年以内(特に数ヶ月以内)に再発作を来す可能性があり、いずれの発作も致死的となるため直ちに入院治療が必要となります。この場合でも合併不整脈の診断や他の心疾患の鑑別のため(2)で挙げた検査が必要となります。心室細動が発生すると除細動器は電気ショックをかけて確実に止めようとします。しかし短時間のうちに発作を繰り返すと除細動器の頻回作動が起こり、かなりの苦痛と、電池消耗を起こすため、入院の上、発作予防の薬の点滴(通常イソプロテレノールという交感神経刺激剤を用います)を使用します。長期的に発作頻度を減らすためにキニジン、ジソピラミド、ベプリジルといった抗不整脈薬を当施設では使用しています。また適応となることは少ないもののカテーテル焼灼術による心室細動の発生起源を治療することもあります。
 
7)一般的注意点
症状がある場合・心肺蘇生後の方では除細動器植込み後は半年間の運転制限や強い高周波や電磁波を出す機器に接する制限、高所作業の制限等が出てきますが、症状がない方の場合、不必要に不安に思われる必要はありません。定期的に外来に通院していただき、心電図検査等で悪化徴候や変動がないかどうかはみていく必要があります。当科では数ヶ月—半年に1度程度が以来に通院していただき、症状や家族歴に変化がないかどうか、心電図異常が悪化していないかどうか確認しています。他の心疾患のように運動制限は必要なく、むしろ運動や食事の注意、塩分を控えめにする等、成人病予防が必要でしょう。また薬のなかのあるものはブルガダ心電図を悪化させるものがあり、その代表例は抗不整脈薬と抗うつ薬です。こういった薬を処方される場合、循環器、特に不整脈の専門医への相談が必要です。その他、発熱等の体温上昇でも心電図異常が強まることがあり、発熱時は早めに病院を受診し解熱薬を処方してもらうこと、温度の高い風呂への長時間の入浴は避ける必要があります。
 
図1 ブルガダ型心電図
左:正常な心電図(右胸部誘導)。中:サドルバック型心電図。ST部分の上昇を認める(矢印)。右:コーブド型心電図。著明な三角形状のST上昇を認める。このタイプが予後と関連するとされる。下:正常心電図の拡大。赤矢印部分をST部分と呼び、この部分が基線より高い場合、ST上昇とする。
図2 当院でのBrugada症候群の予後
赤:一度心肺蘇生を受けたもの。1年以内に大多数が再度、心室細動の発作を来す。緑:失神の既往があるもの。失神の原因は様々考えられるが、他に明らかな原因がない場合、ブルガダ症候群である可能性が高まる。青:無症状例。この群は予後は比較的良好で、発症率は高くないが、十分なリスク評価が必要である。発症した2例ではいずれも植込み型除細動器治療を受けており、突然死を免れている。
 
表 当科で考慮している危険因子


 
L QT延長症候群=突然死症
 この分野の仕事は、大江教授が国立循環器病センター時代からlife workとして取り組まれてきた疾患です。不整脈の中でも稀な疾患ですが、現在でも多くの患者様が岡山大学で治療のために来院されておられます。
このQT延長症候群(Long QT syndrome: LQT)も、Brugada症候群と同様に、明らかな構造的な心疾患がない患者に‘突然死’を生じる疾患であり、心電図上のQT間隔延長、異常T波、多形性心室頻拍(Torsades de Pointes: TdP)、失神あるいは突然死を特徴とする疾患群であります。臨床的には先天性LQTと二次性(後天性)LQTに分類され、さらに先天性LQTは、難聴を伴わず常染色体優性遺伝を示すRomano-Ward症候群と、難聴を伴い常染色体劣性遺伝を示すJervell and Lange-Nielsen症候群に分けられます。この疾患は長い間、原因不明とされてきましたが、1990年代より、これらQTを延長させる心筋のイオンチャネル(主にKチャネル)をコードしている遺伝子変異が報告されるようになり、先天性LQTの大部分、後天性LQTの一部は遺伝子解析によってイオンチャネル病として説明可能な病気となってきています。大変重要なことは、遺伝子変異を見つけ出すことにより、選択的な治療が可能になってきたことです。こうした背景を受けて、岡山大学でも積極的な遺伝子解析とそれに引き続くイオンチャネル機能解析を行い、きめ細かい治療を行っています。
岡山大学循環器内科では、最近、心臓の歩調とりを司るIfチャンネルの異常が、徐脈を伴う先天性LQTの患者様で見つかったことを、海外の論文へ発表しました。また、LQT7とされているAndersen症候群にはU波の異常が主であることを報告しました。今後も地道な研究を続けて、この先天性LQTに対する新しい治療を模索していきます。
二次性(後天性)QT延長症候群は、様々な病的な状態(薬物・徐脈・低K血症など)がKチャネルをブロックすることで二次的にQT延長が引き起こされる疾患です。多くは、心肥大や弁膜症、心筋梗塞などの基礎疾患がある症例に認められること、先天性とは異なり、遺伝子異常が認められる頻度は少ないことを我々も報告していますが、最近、我々は、膠原病患者に生じたLQTが、心筋のKチャンネルに対する自己抗体によって二次的に生じた症例を報告しました。
このように、岡山大学では様々なLQTに対する診断・治療・研究(from cell to bedside)を行っている国内では数少ない医療機関です。
先天性LQT
二次性LQT
1論文・総説(抜粋)
草野研吾:QT延長症候群。Heart View 2006; 10(5): 13-19
西井伸洋、中村一文、草野研吾、大江透:薬剤性QT延長症候群でみられる電気生理学的検査。心臓 2006: 38(1): 9-15
草野研吾、中村一文、大江 透:後天性QT延長症候群の臨床的特徴。Jpn J Clin Pharmacol Ther 2006; 37: 227-230
永瀬聡、柚木佳、三浦大志、吉田賢司、西井信弘、伴場主一、中村一文、斉藤博則、草野研吾、大江透:KCNJ2の遺伝子変異を認めるAndersen症候群(LQT7)における心臓電気生理学的検討。臨床心臓電気生理 2006; 29: 257-264
Ueda K, Nakamura K, Hayashi T, Inagaki N, Takahashi M, Arimura T, Morita H, Higashiuesato Y, Hirano Y, Yasunami M, Takishita S, Yamashina A, Ohe T, Sunamori M, Hiraoka M, Kimura A. Functional characterization of a trafficking-defective HCN4 mutation, D553N, associated with cardiac arrhythmia. The Journal of biological chemistry. 2004;279(26):27194-27198
Nagase S, Kusano KF, Yoshida M, Ohe T. Electrophysiologic characteristics of an Andersen syndrome patient with KCNJ2 mutation. Heart Rhythm. 2007;4(4):512-515.
Morita H, Zipes DP, Morita ST, Wu J. Mechanism of U wave and polymorphic ventricular tachycardia in a canine tissue model of Andersen-Tawil syndrome. Cardiovasc Res. 2007.
Morita ST, Zipes DP, Morita H, Wu J. Analysis of action potentials in the canine ventricular septum: no phenotypic expression of M cells. Cardiovasc Res. 2007;74(1):96-103
Tani Y, Miura D, Kurokawa J, Nakamura K, Ouchida M, Shimizu K, Ohe T, Furukawa T. T75M-KCNJ2 mutation causing Andersen-Tawil syndrome enhances inward rectification by changing Mg(2+) sensitivity. Journal of molecular and cellular cardiology. 2007
Nakamura K, Katayama Y, Kusano KF, Haraoka K, Tani Y, Nagase S, Morita H, Miura D, Fujimoto Y, Furukawa T, Ueda K, Aizawa Y, Kimura A, Kurachi Y, Ohe T. Anti-KCNH2 antibody-induced long QT syndrome: novel acquired form of long QT syndrome. J Am Coll Cardiol. 2007;50(18):1808-1809
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