患者様向け

肺高血圧症:フローラン治療と移植
高血圧症:フローラン治療と移植

肺高血圧:担当(赤木・小川・草野)
肺高血圧症とはどんな病気?
肺高血圧は、さまざまな原因によって肺血管の内腔が狭くなったり、閉塞したりして肺動脈圧が持続的に上昇している状態のことを指します。その原因とは、心臓病、肺の病気、睡眠時無呼吸症候群、慢性肺血栓塞栓症、膠原病や門脈圧亢進症など特定の病気がある場合もありますが、特に原因のないものを原発性肺高血圧症といいます。原発性肺高血圧症の中にも、肺動脈性、肺毛細血管腫症、肺静脈閉塞性と細かく分類されます。初発症状としては、動いたときの息切れや、疲れやすさ、呼吸困難、動悸、足のむくみなどがあります。さらに進行してくると、失神、咳、血痰が出ることもあります。
当科では、主に原発性肺高血圧症の患者様を中心として、慢性肺血栓塞栓症・先天性心疾患・膠原病による肺高血圧症を診療しています。
肺高血圧の治療は?
治療について簡単に説明します。図1に肺高血圧の進行を示します。患者様が医療機関を受診する場合の多くは、症状が出現してからですので、病期としてはある程度進行してからの治療開始となります。

(1)

肺動脈性肺高血圧の進行

重要なことは、息切れなどの自覚症状の出現は肺動脈圧上昇のみではほとんど生じず、持続的な肺動脈圧上昇による慢性的な右室負荷による心不全状態(心臓から十分な血液が拍出されない状態)が引き起こす、ということです。医療機関を受診される場合の多くは自覚症状(労作時の息切れ、下腿浮腫、食欲低下など)を伴っており、この両方の状態にあるため、薬物治療は、症状を取り除いてやる“心不全治療”と“肺動脈圧低下治療”の2つを目的として行います(図2)。

(図2

肺高血圧症の病態・治療

本来であれば肺動脈圧のみを強力に下げる治療が、心不全状態を改善させることができますが、心機能が著明に低下している場合には、肺動脈圧低下を目的とした血管拡張薬の使用によって、心拍出量がさらに低下して心不全状態がしばしば悪化することがあるため、ふたつの治療は並行して行わなければなりません。
治療の二本柱:心不全治療と肺動脈圧低下治療
“心不全治療”としては、利尿薬、強心薬、酸素が中心となります。この治療は短期的には自覚症状が改善しますが、長期的な予後を改善させるためには、肺動脈圧を十分に下げる“肺動脈圧低下治療”を行わねばなりません。肺動脈を拡張する経路はいくつか解明されており(図3)、現在ではそれらの経路に働きかける薬が開発され、実際に使用されています。
(図3)

治療の二本柱:心不全治療と肺動脈圧低下治療

使用される薬としては血管拡張薬で、カルシウム拮抗薬、各種プロスタグランジン製剤、最近になってエンドセリン拮抗薬、フォスフォジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬、Rhoキナーゼ阻害薬などが登場してきました。現在、世界中の様々な医療機関で、これらの長期的な効果や、組み合わせ効果が確認されているところです(図4)。
(図4)

(図4

肺動脈圧低下治療

このように様々な経口薬による治療法が登場していますが、何らかの症状の出現した肺高血圧患者は、急速に症状が悪化することがわかっているので、経口薬で十分な効果が得られない場合は、次の治療(プロスタサイクリンの持続静注など)を早めに考慮していくことが大変重要なことです。
今後様々な新しい薬物が登場し、治験が開始される予定となっています。当科でも積極的に取り組んでおりますので、ご質問の方は是非メールでお寄せ下さい。

フローラン治療
フローラン(一般名:Epoprostenol sodium: プロスタグランジンI2:PGI2 、あるいはプロスタサイクリン)の持続療法は、薬剤抵抗性の肺動脈性肺高血圧に対する最終の内科的治療として行われています。このPGI2は、他の薬物と異なり、体内で作られる生理活性をもった物質、つまり普段体内に存在する薬物であり、強い血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を持っていますが、大変不安定な物質で、溶解した後は室温で8時間、冷却しても24時間程度で失活すること、また体内に入っても3-5分で分解されるため、24時間にわたって持続的に静脈注射をする必要があり、そのため静脈内にカテーテルを持続留置する必要があるなどの欠点を持っています。
当科では、1999年5月から、計34人の患者様にフローラン治療を導入してきた実績があります。また、他院で導入された患者様も含め、現在では7人のフローラン治療に携わっています。原発性肺動脈性肺高血圧の患者様に対するフローラン治療の当院での治療成績(計24人、追跡期間1.8年)は3年生存率で91.7%であり(2007年12月25日時点)、古典的治療による生存確率より格段に向上しています。

肺移植について
様々な肺高血圧に対する薬物が登場し、特にフローラン治療が登場して以降は、肺動脈性肺高血圧で肺移植に至るケースは激減してきています。しかしながら、肺静脈閉塞性肺高血圧(PVOD)や肺毛細血管腫症(PCH)などの疾患については、現時点では肺移植が選択されます。これらの疾患は、術前から診断することが難しいため、フローラン抵抗性の肺高血圧症として移植を行った後に診断されるということも稀ではありません。
現在、国内では8施設(東北大学・独協医科大学・千葉大学・京都大学・大阪大学・岡山大学・福岡大学・長崎大学)が脳死肺移植施設として認定されています。しかしながら、脳死者からの臓器提供が大変限られているため、移植を受けられずに亡くなられる患者様も多いのが現状です。岡山大学は、生体肺移植(生体部分肺移植)を日本で初めて行った施設であり、また現在までで、日本で最も多く行っている施設です。当科では、当院の胸部外科(旧第二外科)と連絡をとり、重症患者さまへの移植を多く手がけてきております。詳しくは、第二外科のホームページをご覧頂ければと思います。
http://www.nigeka-okayama-u.jp/

当科での研究実績
論文・発表(岡山大学、一部国立循環器病センター・抜粋)
・ Date H, Kusano KF, Matsubara H, Ogawa A, Fujio H, Miyaji K, Okazaki M, Yamane M, Toyooka S, Aoe M, Sano Y, Hanazaki M, Goto K, Kasahara S, Sano S, Ohe T. Living-donor lobar lung transplantation for pulmonary arterial hypertension after failure of epoprostenol therapy. J Am Coll Cardiol. 2007;50(6):523-527.
フローランの治療でもよくならない患者様に、生体肺移植が有用であることを報告しました。

Years of follow-up


・ Fujio H, Nakamura K, Matsubara H, Kusano KF, Miyaji K, Nagase S, Ikeda T, Ogawa A, Ohta-Ogo K, Miura D, Miura A, Miyazaki M, Date H, Ohe T. Carvedilol Inhibits Proliferation of Cultured Pulmonary Artery Smooth Muscle Cells of Patients with Idiopathic Pulmonary Arterial Hypertension. J Cardiovasc Pharmacol. 2006;47:250-255.
原発性肺動脈性肺高血圧の患者様の肺動脈平滑筋培養細胞の増殖がcarvedirolで抑制されることを証明しました。

・ Ogawa A, Nakamura K, Matsubara H, Fujio H, Ikeda T, Kobayashi K, Miyazaki I, Asanuma M, Miyaji K, Miura D, Kusano KF, Date H, Ohe T. Prednisolone inhibits proliferation of cultured pulmonary artery smooth muscle cells of patients with idiopathic pulmonary arterial hypertension. Circulation. 2005;112:1806-12
原発性肺動脈性肺高血圧の患者様の肺動脈平滑筋培養細胞の増殖がprednisoloneで抑制されることを証明しました。

・ Ogawa A, Matsubara H, Fujio H, Miyaji K, Nakamura K, Morita H, Saito H, Kusano KF, Emori T, Date H, Ohe T. Risk of alveolar hemorrhage in patients with primary pulmonary hypertension--anticoagulation and epoprostenol therapy. Circ J. 2005;69:216-20.
大量のフローランを使用している患者様にワーファリンを併用すると、出血性合併症が多いことを報告しました。

・ Miyaji K, Matsubara H, Nakamura K, Kusano KF, Goto K, Date H, Ohe T. Equivalence of flow velocities through bilateral pulmonary vein anastomoses in bilateral living-donor lobar lung transplantation. J Heart Lung Transplant. 2005;24:860-4
両側生体肺移植の術中に、経食道心エコーで左右の肺静脈の最大流速を測定し、手術成功例では等しく、不成功例では違っていることを報告しました。

・ Miyaji K, Matsubara H, Nakamura K, Maruo T, Morita H, Saito H, Kusano KF, Emori T, Goto K, Date H, Ohe T. Differences between flow profiles of pulmonary vein anastomoses affected by peripheral atelectasis in cadaveric and bilateral living-donor lobar lung transplantations. J Am Soc Echocardiogr. 2004;17:1003-4
肺移植の術中に、経食道心エコーで肺静脈の流速を測定し、生体肺移植と脳死肺移植では無気肺時のパターンが違っていた2症例を報告しました。

・ Hashimoto K, Nakamura K, Fujio H, Miyaji K, Morita H, Kusano K, Date H, Shimizu N, Emori T, Matsubara H, Ohe T. Epoprostenol therapy decreases elevated circulating levels of monocyte chemoattractant protein-1 in patients with primary pulmonary hypertension. Circ J. 2004;68:227-231
原発性肺高血圧の患者様では、血中MCP-1濃度が上昇しており、フローラン治療で低下してくることを報告しました。

・ Kusano KF, Date H, Fujio H, Miyaji K, Matsubara H, Nagahiro I, Satoh T, Shimizu N, Ohe T. Recovery of cardiac function after living-donor lung transplantation in a patient with primary pulmonary hypertension. Circ J. 2002;66:294-6
日本で初めての生体肺移植例で、移植後に心機能が回復したことを報告しました。

・ Date H, Sano Y, Aoe M, Matsubara H, Kusano K, Goto K, Tedoriya T, Shimizu N. Living-donor single-lobe lung transplantation for primary pulmonary hypertension in a child. J Thorac Cardiovasc Surg. 2002;123:1211-3.
日本で初めての生体肺移植例を報告しました。

・ Nagaya N, Nishikimi T, Uematsu M, Satoh T, Kyotani S, Sakamaki F, Kakishita M, Fukushima K, Okano Y, Nakanishi N, Miyatake K, Kangawa K. Plasma brain natriuretic peptide as a prognostic indicator in patients with primary pulmonary hypertension. Circulation. 2000;102:865-70.
原発性肺高血圧の患者様で、BNPが予後の指標であることを報告しました。

・ Kakishita M, Nishikimi T, Okano Y, Satoh T, Kyotani S, Nagaya N, Fukushima K, Nakanishi N, Takishita S, Miyata A, Kangawa K, Matsuo H, Kunieda T. Increased plasma levels of adrenomedullin in patients with pulmonary hypertension. Clin Sci (Lond). 1999;96:33-9.
原発性肺高血圧の患者様で、アドレノメジュリンが予後の指標であることを報告しました。

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